真っ黒な鳥だった。燦々と降り注ぐ太陽のもとで、村で一番大きい大樹の陰に身を横たわらせて、弱々しく息をしていた。
鴉のように見えたけれど、どうやら鴉よりもかなり大きいようだった。
可哀想に思って、羽に包帯を巻いてやり、肉と水を少し分けてやった。なにぶん幼子のやることだから、不器用で手際も悪かったのだけれど、その鳥は、逃げたり暴れたりはしなかった。
ただ、凪いだ黒い瞳でじっとこちらを見つめていた。その瞳に、どことなく惹かれるものを感じた。
無性に様子が気になって、次の日も、その次の日も、その木陰へと会いに行った。
村に、一緒に遊ぶような友達はいなかった。それがこの時ばかりはひどく好都合だった。
木陰に腰を下ろして、昼食のサンドイッチをもそもそと齧りながら、家の貯蔵庫から少しばかりくすねてきた肉を差し出して、食べさせた。
きっと、頭が良い鳥だったのだろう。
横たわる鳥に向かって、何やら話しかけていたような記憶がある。何を話していたのかは覚えていないけれど、話しかけられた鳥の、まるで相槌を打つかのように控えめな鳴き声だけは、いやに鮮明に覚えている。
そうして一週間か二週間か、あるいはもう少し長かっただろうか。
ともかく、再び飛べるようになったその鳥は、ある夜、部屋の窓辺に現れた。満月の日だった。
いつの間にか窓枠に止まっていたその鳥は、優しい目でこちらを見た。そして羽を広げて柔らかい声で一つ、こお、と鳴いた。
陽の下では弱々しく縮こまって見えた真っ黒な羽は、冷たい月光に照り映えて、複雑な色合いに輝いていた。
そのまま飛び立った鳥は、高々と舞い上がるかと思いきや、地に落ちる暗がりの合間を滑るように飛び、あっという間に見えなくなった。
それきり、あの鳥には会っていない。